第5,5話「だまよお正義の一日」

それから数日が経った朝、えうんとミオは二人で森の端にいた。
A氏とB氏が成長させた植物を観察するためだった。他の皆には内緒で、こっそりと。
「見て、この葉っぱ」
ミオが指差した葉は、普通の倍以上の大きさに成長していた。
「色も濃いね」
「これなら、もっといい染料が作れるかも」
えうんは別の植物を見ていた。蔦が太く丈夫に育っている。
「これで何か作れそう」
「えうん君、最近何か作りたいものある?」
「えっと……」
えうんは少し恥ずかしそうにした。
「皆が使える、大きな籠を作りたいんだ。くぴぃが配達できるような」
「素敵!手伝うよ」
二人で蔦を集め始めた。静かな森の中、作業をしながら、時々目が合っては微笑み合う。
「ミオさんは、どうして染め物を?」
「お母さんが教えてくれたの。小さい頃から」
「いいな……」
「えうん君も、きっと誰かに教わったんじゃない?」
「覚えてないけど……手を動かすのは昔から好きだった」
二人で協力して、蔦を編み始める。ミオが形を整え、えうんが編み込んでいく。
「息が合うね」
「う、うん」
その時、茂みがガサガサと音を立てた。
二人は顔を見合わせて、警戒した。
出てきたのは、白い毛並みのエウニカ種だった。
「初めまして」
穏やかな声。年齢不詳の、不思議な雰囲気を持つ白いエウニカ種。
「私はユキと申します」
「あ、えっと、ぼくは、えうん……」
「私はミオです」
ユキは二人を見て、微笑んだ。
「A氏とB氏に会いましたね」
「!」
「どうして知ってるの?」
ミオが驚く。
「私も、彼らのことを知っているからです」
ユキは静かに語り始めた。
「彼らは遠い星から来ました。植物を育てる使命を持って」
「使命?」
「宇宙には、植物が枯れてしまった星がたくさんあります。彼らは、その星々を再生させる存在なのです」
えうんとミオは息を呑んだ。
「でも、なぜどどらんどに?」
「ここは、まだ豊かだから。学ぶために来たのでしょう」
ユキは二人に近づいて、小さな金属片を差し出した。
「これを」
「これは?」
「いつか分かる時が来ます。えうん、あなたの才能が必要になる時が」
そう言うと、ユキは森の奥へ消えていった。
二人は呆然としていた。
「今の……」
「不思議な人だったね」
えうんは金属片を見つめた。温かい。
「これ、何だろう」
「分からないけど、大切にしておこう」
ミオはえうんの手に自分の手を重ねた。
「一緒に、謎を解いていこう」
「うん」
二人は顔を赤らめながら、作りかけの籠を持って帰路についた。

番外編「だまよおの正義の一日」
その頃、だまよおはマメキン種の集落にいた。
岩場の奥にある、石のドーム群。マメキン種たちが集まって暮らしている場所だ。
「だまよお!また来たのか」
年上のマメキン種、ガンさんが声をかけてきた。
「おう!今日も見回りだ!」
「相変わらず元気だな」
集落の中央広場では、子供たちが遊んでいた。
「あ、だまよお兄ちゃん!」
小さなマメキン種の子供たちが集まってくる。皆、だまよおより一回り小さい。
「悪い奴を捕まえた話、聞かせて!」
「えーっと……」
実は、だまよおは本当の「悪い奴」を捕まえたことはない。でも、子供たちの期待に満ちた目を見ると……
「この前な、大きな影を見つけたんだ!」
「おお〜!」
「それでな、だまぁ!って叫んだら……」
話しているうちに、だまよお自身も楽しくなってきた。
「実は、困ってる友達だったんだ」
「え〜?」
「でもな、困ってる奴を助けるのも正義の味方の仕事だ!」
子供たちは納得したような、しないような顔をしている。
その時、広場の端で、一人のマメキン種の子供が泣いていた。
「どうした!」
だまよおが駆け寄る。
「お、おもちゃが……木の上に……」
見ると、高い木の枝に、小さな石の人形が引っかかっていた。
「よし、だまよお様に任せろ!」
だまよおは木に登り始めた。粘菌質の体は滑りやすくて苦労したが、なんとか人形を取ることができた。
「はい!」
「ありがとう、だまよお兄ちゃん!」
子供の笑顔を見て、だまよおは誇らしい気持ちになった。
これが、おれの正義だ。
夕方、集落を出る時、ガンさんが言った。
「だまよお、お前はいい奴だな」
「え?」
「本当の悪い奴なんて、そうそういない。でも、困ってる奴を助けるのは立派なことだ」
「そ、そうか?」
「ああ。それが、お前の正義でいいんじゃないか」
だまよおは、なんだか嬉しくなった。
家に帰る道中、えうんとミオが一緒に歩いているのを見かけた。
二人とも楽しそうだ。
「へへ、いいじゃないか」
だまよおは、そっと別の道から帰ることにした。
これも、正義の味方の優しさだ。

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