秋の気配が感じられる朝、ミオの家の前に皆が集まっていた。
「今日は特別な染め物を教えるね」
ミオが嬉しそうに言う。最近、えうんとの距離が縮まってから、ミオはより積極的になった気がする。
「特別な染め物?」
くぴぃが首を傾げる。白い丸い体を揺らしながら、期待に目を輝かせていた。
「秋にしか作れない、金色の染料」
「金色!?」
だまよおが驚きの声を上げた。
「すごいじゃないか!」
えうんも興味深そうにミオを見つめる。最近、ミオちゃんと呼ぶようになってから、目が合うたびにお互い照れくさそうに微笑む。
「でも、材料を集めるのが大変なの」
ミオが説明を始めた。
「黄金葉っていう特別な葉っぱが必要で、それは高い木の上にしか生えてない」
「高い木か……」
くぴぃが不安そうに翼を動かす。飛べないくぴぃにとって、高い場所は苦手だ。
「大丈夫、皆で協力すれば」
えうんが励ます。
森に入ると、確かに巨大な木がそびえ立っていた。見上げると首が痛くなるほど高い。
「あそこに見える、金色の葉っぱ」
ミオが指差す先に、太陽の光を受けて輝く葉が見えた。
「どうやって取る?」
だまよおが考え込む。
「おれが登ってみる」
グレーの粘菌に覆われた体で木に張り付こうとするが、樹皮が滑らかで登れない。
「だめだ、滑る」
「じゃあ、私が……」
くぴぃが翼を広げようとするが、やっぱり飛べない。悔しそうに俯く。
「待って」
えうんが周りを見回した。
「これを使おう」
長い竹と、丈夫な蔦、そして大きな布。えうんは素早くそれらを組み合わせ始めた。
「何作ってるの?」
ミオが覗き込む。
「簡単な道具。竹の先に袋をつけて、葉っぱを受け止める仕組み」
皆で協力して、長い竿の先に布の袋を取り付けた。
「これなら届くかも」
だまよおとえうんで竿を支え、ミオが誘導する。くぴぃは下で袋を広げて待機。
「もう少し右!そこ!」
やっとの思いで黄金葉を数枚手に入れた。
「やった!」
皆で喜びを分かち合う。
ミオの家に戻ると、早速染め物の準備が始まった。
「まず、葉っぱを細かく刻んで」
ミオの指導の下、皆で作業を進める。
「くぴぃちゃん、その水を火にかけて」
「はーい!」
小さな翼で一生懸命鍋を運ぶくぴぃ。
「だまよお君は、薪をお願い」
「おう!任せろ!」
「えうん君は……」
ミオが少し照れながら言う。
「一緒に、染める布を準備して」
二人で白い布を広げる。手が触れ合って、顔を見合わせる。
「ミオちゃん、これでいい?」
「うん、完璧」
くぴぃとだまよおが、二人の様子を見てクスクス笑っている。
黄金葉を煮出すと、本当に金色の液体ができた。
「すごい、本当に金色だ」
だまよおが感心する。
「でも、これだけじゃないの」
ミオが秘密めいた笑顔を見せる。
「実は、もう一つ材料があって」
ミオは小さな瓶を取り出した。中には、銀色の粉が入っている。
「これは?」
「月光石の粉。満月の夜に採れる特別な石を砕いたもの」
えうんは思い出した。おひーんが満月の夜に陸に上がるという話を。もしかして、これも満月と関係があるのだろうか。
「これを少し加えると……」
ミオが粉を入れた瞬間、金色の液体がきらきらと輝き始めた。まるで、液体の中に星が散りばめられたよう。
「きれい……」
くぴぃが息を呑む。
布を液体に浸して、しばらく煮る。取り出すと、布は金色に輝いていた。しかも、角度によって銀色の光がきらめく。
「これ、すごい!」
「でしょ?」
ミオが誇らしげに微笑む。
「これで何か作ろうよ」
くぴぃの提案に、皆が頷いた。
「そうだ、皆でお揃いのものを作ろう」
えうんのアイデアに、ミオが目を輝かせた。
「いいね!何がいいかな」
「腕輪とか?」
「リボンもいいな」
皆でアイデアを出し合っていると、だまよおが言った。
「お守りはどうだ?」
「お守り?」
「これから何があるか分からないし、皆で同じお守りを持ってれば、離れてても繋がってる気がする」
だまよおらしくない、センチメンタルな提案だった。
「いいね、それ」
えうんが賛成する。
「私も賛成!」
くぴぃも翼をパタパタさせる。
「じゃあ、決まり」
ミオが微笑んだ。
皆で金色の布を小さく切って、お守りを作り始めた。えうんが袋を縫い、ミオが紐を編み、だまよおとくぴぃが中に入れる香草を集める。
「これ、入れよう」
くぴぃが小さな白い羽を差し出した。
「私の羽」
「いいの?」
「うん、皆のお守りに」
だまよおも考えて、小さな石を出した。
「これ、正義の石。マメキン種に伝わる守り石」
ミオは押し花を、えうんは小さな笛のかけらを入れた。
完成したお守りは、金色に輝いていて、とても美しかった。
「これで、ずっと友達だね」
くぴぃが嬉しそうに言う。
「当たり前だろ」
だまよおが胸を張る。
夕方、それぞれ帰る前に、えうんはミオに声をかけた。
「ミオちゃん、今日はありがとう」
「ううん、皆のおかげ」
二人は少し離れたところで話していた。
「あのさ、ミオちゃん」
「なに?」
「今度、二人で……その、特別な場所に行かない?」
ミオの顔が赤くなった。
「特別な場所?」
「うん。最近見つけた、きれいな場所があって」
「……うん、行く」
二人の約束を、金色のお守りが静かに見守っていた。
その夜、それぞれの家で、皆は金色のお守りを大切にしまった。
だまよおは、お守りを見つめながら考えていた。
最近、色んなことが起きている。A氏とB氏、ユキ、そして感じる変化の予感。
でも、このお守りがあれば、皆で乗り越えられる気がした。
くぴぃは、お守りを抱きしめて眠った。飛べなくても、皆がいる。それだけで、勇気が湧いてくる。
えうんは、金属片と一緒にお守りをしまった。二つとも、大切な宝物だ。
ミオは、お守りを作りながらえうんと過ごした時間を思い出していた。特別な場所への約束も。
水辺では、おひーんが月を見上げていた。
「皆〜、いい友達を持ったね〜」
満月ではないけれど、おひーんには分かる。この絆は、きっと大切なものになる。
金色のお守りは、それぞれの場所で、静かに輝いていた。
四コマ
No.4 しょくぶつ



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