第11話「白い記憶 ~ユキの過去~」

静かな夜、森の奥深くにある洞窟で、ユキは一人座っていた。
白い毛並みが月光を受けて、幻想的に輝いている。年齢不詳の瞳には、深い知識と悲しみが宿っていた。
手の中には、えうんに渡したものと似た金属片がある。ただし、こちらは少し大きく、模様も複雑だ。
「もう、どれくらい経ったかしら……」
独り言が、洞窟に響く。
ユキは目を閉じた。
記憶が、波のように押し寄せてくる。

<断片1:出会い>
まだユキが若かった頃。普通の茶色いエウニカ種として、家族と暮らしていた。
ある日、森で不思議な光を見つけた。近づくと、そこには銀色の物体が落ちていた。今思えば、A氏とB氏の船に似ていた。
中から出てきたのは、光る球体だった。
『助ケテ……』
頭に直接響く声。
若きユキは、怖がらずに球体に触れた。
その瞬間、膨大な知識が流れ込んできた。宇宙の記憶、星々の歴史、生命の繋がり。
そして、ユキの毛は真っ白に変わった。

<断片2:使命>
白くなったユキを、他のエウニカ種は恐れた。
「呪われた」「不吉だ」
そんな言葉を投げかけられ、ユキは群れを離れることになった。
しかし、ユキには分かっていた。これは呪いではなく、使命なのだと。
球体は言った。
『鍵ヲ……守レ……イツカ……必要ニナル』
球体は、七つの金属片に分かれた。それが、宇宙を繋ぐ鍵。
ユキは、その一つを持ち、残りを信頼できる者に託すことにした。

<断片3:A氏とB氏>
数年前、ユキは予感していた。
新たな来訪者が来ることを。
案の定、A氏とB氏が落ちてきた。しかし、彼らは球体とは違う存在だった。
『我々ハ……学ビニ来タ』
彼らは征服者ではなく、学習者だった。
ユキは彼らに、どどらんどの知識を少しずつ教えた。言葉、文化、そして生命の大切さ。
A氏とB氏は素直に学んだ。まるで、子供のように。

<断片4:えうんとの出会い>
ユキがえうんに目をつけたのは、偶然ではなかった。
えうんの手先の器用さ、創造力、そして純粋な心。それは、鍵を扱うのに必要な資質だった。
金属片を渡す時、ユキは迷った。
こんな若い子に、重い運命を背負わせていいのか。
でも、えうんの目を見て確信した。この子なら、きっと正しい選択をする。

現在に戻る。
ユキは目を開けた。
洞窟の入り口に、誰かが立っている。
「久しぶりね」
そこにいたのは、別の白いエウニカ種だった。ユキよりも年老いて見える。
「長老……」
「ユキ、時が近づいている」
長老と呼ばれた白いエウニカ種は、ゆっくりと近づいてきた。
「知っています」
「七つの鍵が集まる時、扉が開く」
「はい」
「その先にあるものを、若い者たちは受け止められるかしら」
ユキは、えうんたちの顔を思い浮かべた。
「大丈夫です。彼らなら」
長老は優しく微笑んだ。
「あなたがそう言うなら、信じましょう」
長老は、小さな包みをユキに渡した。
「これは?」
「二つ目の鍵を。持つべき者に渡しなさい」
そう言うと、長老は姿を消した。まるで、最初からいなかったかのように。
ユキは包みを開けた。中には、やはり金属片が入っていた。これで三つ。あと四つ。
「もうすぐね……」
洞窟を出ると、満月が輝いていた。
ふと、水辺の方を見る。おひーんが月光を浴びているのが、遠くに見えた。
「ヒポメ種も、知っているのかしら」
ユキは、どどらんどの各種族が、それぞれ何かを知っている気がしていた。
マメキン種の正義感、エウニカ種の器用さ、クーコ種の視野の広さ、ヒポメ種の記憶。
全てが必要になる時が来る。
翌朝、ユキはえうんの元を訪れることにした。
えうんは、ミオと一緒に何か作っていた。
「あら、仲良しね」
突然の声に、二人は飛び上がった。
「ユ、ユキさん!」
「こんにちは」
ミオも慌てて挨拶する。
「二人に、渡したいものがあるの」
ユキは二つ目の金属片を取り出した。
「これは……」
えうんが持っている金属片と似ているが、少し形が違う。
「二つ目の鍵。でも、これは二人で持っていて」
「二人で?」
「そう。信頼し合う二人でなければ、使えない鍵もあるの」
えうんとミオは顔を見合わせた。
「分かりました」
二人は同時に答えた。
ユキは微笑んだ。若い二人の絆を見て、希望を感じた。
「大切にしてね。いつか、本当に必要な時が来るから」
そう言うと、ユキはまた姿を消した。
残された二人は、金属片を見つめていた。
「ミオちゃん、これ……」
「うん。一緒に守ろう」
二人は、金属片を大切にしまった。
その日の夕方、ユキは高い丘の上に立っていた。
どどらんど全体を見渡せる場所。
平和な風景。でも、ユキには見えている。
遠くの空に、少しずつ、闇が集まり始めていることが。
「まだ時間はある。でも、準備は急がないと」
白い毛並みを風になびかせながら、ユキは決意を新たにした。
若い者たちを導き、来たるべき時に備える。
それが、白いエウニカ種としての、ユキの使命。
過去の記憶と、未来への希望を胸に、ユキは歩き続ける。

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