夕暮れ時、えうんはミオと二人で森の奥へ向かっていた。
「本当に素敵な場所があるの?」
ミオが期待に満ちた目で聞く。
「うん。この前、A氏とB氏に会った後で偶然見つけたんだ」
二人は手を繋いで、普段は行かない森の深い場所へと進んでいく。
今夜は特別な夜だった。何百年に一度という「二つの月」が見える夜。古い言い伝えでは、この夜だけ異なる世界の境界が薄くなり、不思議なことが起きるという。
「あ、聞こえる?」
ミオが立ち止まった。
かすかに水の音が聞こえる。さらに進むと、木々が開けて、小さな泉が現れた。
「わぁ……」
ミオが息を呑む。
泉は完全な円形で、水面は鏡のように静かだった。周りには青く光る苔が生えていて、まるで星空が地面に降りてきたよう。
「きれい……」
「でしょ?まだ誰にも言ってなかったんだ」
えうんが恥ずかしそうに言う。
「ミオちゃんと一緒に見たくて」
ミオの顔が月明かりの中でも分かるほど赤くなった。
二人は泉のほとりに座った。空を見上げると、いつもの月の横に、もう一つの月が昇り始めていた。
「本当に二つある……」
二つ目の月は、少し紫がかった光を放っている。幻想的で、でもどこか不安を感じさせる色だった。
「ねぇ、えうん君」
「なに?」
「最近、色んなことが起きてるよね。A氏とB氏が来て、封印が弱まって……」
ミオの声には不安が混じっていた。
「怖い?」
「少し。でも……」
ミオはえうんの手を強く握った。
「えうん君がいるから、大丈夫」
二人が見つめ合っていると、泉の水面が急に波立った。
「え?」
風もないのに、水面に波紋が広がっていく。そして、水の中から光が溢れ出した。
「これは……」
光が形を作り始める。それは、見覚えのある形だった。
金属片。
四つ目の鍵が、泉の底から浮かび上がってきた。
「鍵が……どうしてここに?」
えうんが手を伸ばすと、金属片は自然に手の中に収まった。温かく、そして今までの鍵よりも強い光を放っている。
「見て、模様が違う」
ミオが指差す。確かに、この鍵には星のような模様が刻まれていた。
その時、二つの月の光が金属片に当たった。
すると、空中に映像が浮かび上がった。
どどらんどの全体図。そして、七つの光る点。今まで見つけた四つの鍵の場所は白く光り、残り二つは赤く点滅している。
最後の一つはどこだ?
「一つは……山の頂上?」
「もう一つは……」
えうんとミオは顔を見合わせた。
残りの鍵のうちの一つは、洞窟の奥。封印がある、あの場所だった。
「封印の中に鍵が……」
映像はさらに変化した。
七つの鍵が集まり、大きな扉が現れる。扉の向こうには、眩い光が……
しかし、映像は急に乱れた。
黒い影が映像を覆い尽くす。赤い目が無数に光り、不気味な唸り声が聞こえてきた。
「きゃっ!」
ミオがえうんにしがみつく。
映像は消えたが、不吉な予感は残った。
「これは……警告?」
えうんが呟いた時、森の奥から物音がした。
ガサガサ、ガサガサ。
何かが近づいてくる。
「誰?」
二人は身構えた。
現れたのは、ユキだった。
「やはり、ここにいたのね」
白い毛並みが二つの月の光を受けて、神秘的に輝いている。
「ユキさん!」
「二つの月の夜、泉が鍵を解放する。古い言い伝えは本当だったのね」
ユキは四つ目の鍵を見つめた。
「星の鍵。最も強い力を持つ鍵よ」
「力?」
「他の鍵を導き、束ねる力。えうん、あなたがこれを手にしたのは運命」
ユキの表情が急に厳しくなった。
「でも、急がなければ」
「どうして?」
「感じない?」
ユキが森の奥を指差す。
確かに、嫌な気配がする。遠くで、何かが蠢いている。
「封印が、限界に近づいている。二つの月の影響で、さらに弱まっているわ」
「じゃあ……」
「ええ。もうすぐ、本格的に影が溢れ出す」
三人は、不安を共有しながら立っていた。
その時、遠くから声が聞こえた。
「えうーん!ミオちゃーん!」
だまよおの声だ。
「大変だ!村に影が!」
血相を変えて走ってくるだまよおの後ろから、くぴぃも転がるように走ってきた。
「た、大変!黒いものが!」
「やはり始まったか」
ユキが呟く。
皆で急いで村へ向かった。
村の入り口で、信じられない光景が広がっていた。
小さな影が数体、うろうろと動き回っている。まだ大きくはないが、確実に植物から生命力を吸い取っている。
「これが……影」
A氏とB氏もいた。彼らは必死に振動を発して、影を押し返そうとしている。
『多イ……押サエキレナイ』
「皆で協力しましょう」
ユキの指示で、全員が力を合わせることになった。
えうんは笛を吹き、ミオは光る染料を撒き、だまよおは石を投げ、くぴぃは大声で叫ぶ。
おひーんも水を飛ばして応戦した。
なんとか影を追い払ったが、これは始まりに過ぎなかった。
「これから、もっと来る」
ユキが警告する。
「七つの鍵を集めて、新たな封印を作らなければ」
えうんは五つの金属片を見つめた。
あと二つ。
時間との戦いが始まった。
二つの月は不気味に輝き続け、どどらんどの運命の夜は深まっていく。
「皆で、乗り越えよう」
えうんの言葉に、全員が頷いた。
平和だった日常は終わり、戦いの時が来た。
でも、一人じゃない。
仲間がいる。
四コマ
No.4 しょくぶつ



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