第19話「くぴぃの飛翔と最後の鍵」

明け方、くぴぃは崖の上に立っていた。
白い丸い体を震わせながら、何度も深呼吸をする。赤いリボンが朝風に揺れていた。
「くぴぃちゃん、無理しないで」
ミオが心配そうに見守る。皆も集まっていた。
「大丈夫。今度こそ飛んでみせる」
昨夜から、影の獣の数は増え続けている。A氏とB氏が必死に植物の力で防いでいるが、限界が近い。
「七つ目の鍵がないと、新しい封印は作れない」
ユキの言葉が重くのしかかる。
えうんは、くぴぃに近づいた。
「くぴぃ、これを持って」
星の鍵を差し出す。
「え?でも、これは大切な……」
「星の鍵には、他の鍵を導く力がある。きっと、七つ目の鍵も呼んでくれる」
くぴぃは、小さな翼で大切に鍵を抱えた。
「ありがとう、えうん君」
だまよおが前に出た。
「くぴぃ、お前は一人じゃない。おれたちがついてる」
「そうだよ〜」
おひーんも水辺から声をかける。
「風を感じて〜、体を預けるんだ〜」
A氏とB氏も応援に来た。
『飛ブ……信ジル……大切』
『君ナラ……デキル』
くぴぃは皆を見回した。温かい眼差しに包まれている。
「みんな……」
涙が溢れそうになったが、くぴぃは顔を上げた。
「行ってくる!」
小さな翼を精一杯広げる。
助走をつけて、崖の端から飛び出した。
最初は落下していく。皆が息を呑む。
でも、くぴぃは諦めなかった。
「飛べる……飛べる……飛べる!」
必死に翼を動かす。星の鍵が光り始めた。
その光に包まれて、くぴぃの体がふわりと浮いた。
「あ……」
飛んでいる。
本当に飛んでいる。
「やった!くぴぃが飛んだ!」
だまよおが叫ぶ。
「頑張って、くぴぃちゃん!」
ミオも声援を送る。
くぴぃは、ゆっくりと、でも確実に上昇していく。
雲に近づくと、不思議なことが起きた。
雲の一部が固まって、道のようになった。そこに、小さな浮遊島が見えてきた。
「あった……!」
浮遊島は、雲に隠れて普段は見えない場所にあった。
くぴぃは慎重に島に降り立った。
島の中央に、古い祭壇があった。そこに、六つ目の金属片が置かれていた。
六つ目の鍵。
他の鍵とは違い、虹色に輝いている。
「これが、六つ目の鍵……」
手に取った瞬間、くぴぃの体に不思議な感覚が流れ込んできた。
<記憶>
遠い昔、七つの種族が協力して鍵を作った時の記憶。
クーコ種の代表が、この鍵を空に隠した。
「いつか、飛ぶことの本当の意味を理解した者が、これを見つけるだろう」
飛ぶことは、ただ空を移動することじゃない。
皆の希望を背負って、高みを目指すこと。
<記憶終わり>
「そうか……私が飛べたのは……」
皆の応援があったから。一人じゃなかったから。
くぴぃは、二つの鍵を持って飛び立った。
今度は、恐怖はなかった。
地上に戻ると、皆が歓声を上げて迎えてくれた。
「くぴぃ!」
「やったね!」
「これで六つ!あと一つ!」
くぴぃが地上に戻り、皆が六つの鍵を確認していた時、A氏とB氏が突然振動し始めた。
『思イ出シタ……』
A氏が言う。
『我々ガ……最初ニ落チタ場所……』
B氏が続ける。
『船ノ中ニ……古イ鍵ガ……』
「船の中?」
えうんが聞く。
『故郷カラ……持ッテキタ……守護ノ鍵』
皆で急いで、A氏とB氏が最初に落ちてきた場所へ向かった。
銀色の船の残骸の中を探すと、確かに金属片があった。
七つ目の鍵。
これは、どどらんどの鍵ではなく、宇宙から来た鍵だった。
『全テノ世界ハ……繋ガッテイル』
A氏の言葉通り、この鍵も他の六つと完璧に共鳴した。
「これで本当に七つ全部!」
しかし、喜びも束の間、森から大きな唸り声が響いてきた。
影の獣たちが、完全に実体化していた。
黒い体に赤い目、鋭い爪と牙を持つ獣が、十体以上も森から出てきた。
「まずい……」
ユキが青ざめる。
「封印を急がないと」
えうんは七つの鍵を並べた。
全ての鍵が共鳴し始める。強い光を放ち、空中に浮かび上がった。
鍵たちが円を描くように回転し始める。
その中心に、光の扉が現れた。
「これが……新しい封印の扉?」
「いいえ」
ユキが首を振る。
「これは、選択の扉」
「選択?」
「封印するか、それとも……浄化するか」
皆が息を呑んだ。
A氏とB氏が前に出た。
『浄化……可能?』
『影ヲ……消スノデハナク……元ニ戻ス?』
ユキは頷いた。
「理論上は可能。でも、とても危険」
「どういうこと?」
えうんが聞く。
「影も、元は生命エネルギーの一部。歪んでしまっただけ。浄化すれば、元の姿に戻るかもしれない」
「でも?」
「失敗すれば、影に飲み込まれる」
重い沈黙が流れた。
影の獣たちが、じりじりと近づいてくる。
「どうする?」
だまよおが皆を見回す。
「封印すれば安全だけど、A氏とB氏の星のように、いつかまた同じことが起きるかもしれない」
ミオが言う。
「浄化できれば、根本的な解決になる」
えうんが付け加える。
「でも、危険すぎる」
くぴぃが心配そうに言う。
おひーんが、ゆっくりと口を開いた。
「皆で〜、力を合わせれば〜、できるかも〜」
A氏とB氏も頷いた。
『我々モ……協力スル』
『故郷ヲ……救ウ方法……見ツケタイ』
えうんは皆を見回した。
それぞれの顔に、決意が見えた。
「じゃあ、やってみよう。浄化を」
「でも、どうやって?」
その時、七つの鍵が更に強く光った。
扉の向こうから、声が聞こえてきた。
『勇気ある者たちよ……』
古い、でも優しい声。
『七つの心を一つに……光と影を調和させよ……』
失われた三つの種族の声だった。
『我々の力も……共にある……』
扉から、三つの光が飛び出してきた。
それは、A氏とB氏の周りを回り始めた。
『仲間……』
A氏が驚きの声を上げる。
『同ジ……植物守護者……』
三つの光は、失われた種族の魂だった。
そして、彼らも植物守護者だったのだ。
「じゃあ、皆で一緒に」
えうんが手を差し出す。
皆が手を繋いだ。
マメキン種、エウニカ種、クーコ種、ヒポメ種、そして植物守護者たち。
全ての種族が、一つの輪になった。
影の獣たちが、目前まで迫っていた。
「今だ!」
七つの鍵が、眩い光を放った。
最後の戦いが、始まろうとしていた。

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