第3話「水辺の友達」

朝早く、えうんは川辺にいた。昨日ミオが「何か作る」と言っていたのが気になって、材料になりそうなものを探していたのだ。
川辺の葦を見つけて、これなら何か編めるかもしれないと考えていると、水面がゆらりと動いた。
「ふわぁ〜……」
大きなあくびと共に、水の中から細長い白い姿が現れた。平たい体を水面に浮かべ、ピンクの口を大きく開けている。1メートルほどの細長い体は、まるで水面を滑るように設計されているかのようだった。
「あ、えうん君じゃない〜」
穏やかな声。ヒポメ種のおひーん君だった。小さな目が優しく細められている。
「お、おはよう、おひーん君」
「おはよ〜。朝早いんだね〜」
おひーん君は平たい体を水面にぺったりと浮かべて、また目を閉じそうになる。その姿はまるで白い浮き輪のようだった。
「あ、あの、おひーん君」
「ん〜?」
「葦って、使ってもいい?」
「いいよ〜。好きなだけどうぞ〜」
そう言うと、本当に寝てしまった。平たい体が水面に完全に浮いて、ゆらゆらと漂っている。
「だまぁ!」
突然の声に、えうんは飛び上がった。
「だ、だまよお君!」
「えうん、朝早いな!何してるんだ?」
グレーの粘菌に覆われた体を揺らしながら、だまよおが近づいてくる。
「葦を集めてて……」
「葦?何に使うんだ?」
「分からないけど、何か作れるかなって」
「へぇ〜」
だまよおが水面を見ると、おひーん君が平たく浮いている。
「あ!おひーん君が……あ、寝てるのか」
「う、うん。いつもああやって浮いてるんだ」
二人が話していると、ころころと転がるような足音が聞こえてきた。
「おはよ〜!」
くぴぃだった。白い丸い体を揺らしながら、一生懸命走ってくる。赤いリボンが朝日に輝いていた。
「あ、何か浮いてる!」
くぴぃの声で、おひーん君が片目を開けた。
「ん〜?新しい子〜?」
「きゃ!しゃべった!」
くぴぃが驚いて後ろに転がった。
「あ、ごめんね〜。ぼく、おひーん」
平たい体をくねらせて、おひーん君が向きを変える。ピンクの口元が優しく微笑んでいるように見えた。
「くぴぃです!よろしく!」
「よろしく〜。クーコ種かな〜?」
「うん!でも、まだ飛べないの」
「そうなんだ〜。でも、いいじゃない〜。ぼくも陸は歩けないし〜」
おひーん君の言葉に、くぴぃは少し救われた様子だった。確かに、おひーん君の平たい体は、陸上では動きにくそうだ。
「皆、もう集まってる!」
ミオの声がして、振り返ると、大きな布包みを持ってやってきた。
「おはよう、ミオさん」
「おはよう!あ、これがおひーん君?」
「初めまして〜」
おひーん君は水面に浮かんだまま、ピンクの口を開けて挨拶した。
「細長い!」
「ヒポメ種だから〜。水の中が得意なんだ〜」
「大人になったらもっと長くなるの?」
「3、4メートルくらいになるらしいよ〜」
皆が驚く。そんなに長くなったら、川を泳ぐ姿はさぞ壮観だろう。
「さて、約束のものを見せるね」
ミオが布包みを開くと、中から色とりどりの布で作った小物が出てきた。
「わぁ!」
「これは、えうん君に」
小さな袋だった。道具を入れるのにちょうど良さそうな大きさ。
「こんなの、もらっていいの?」
「昨日の笛のお礼。それに、これからもっと色んなもの作るでしょ?」
えうんは嬉しそうに袋を受け取った。
「だまよお君には、これ」
グレーの粘菌でも汚れが目立たない、濃い色の布で作った鉢巻きだった。
「おお!正義の味方っぽい!」
「そして、くぴぃちゃんには……」
ミオが取り出したのは、小さな布製の羽飾りだった。
「これ、翼につけてみて」
くぴぃの小さな翼に、ピンクの羽飾りをつけると、まるで翼が大きくなったように見えた。
「かわいい!」
くぴぃは嬉しそうに翼をパタパタさせる。
「おひーん君にも何か作りたいけど……」
「いいよ〜。ぼくは水に浮いてるだけで幸せだから〜」
平たい体を気持ちよさそうに水面に広げて、おひーん君はまた目を閉じた。
午後、皆で葦を使って何か作ることになった。
「葦で籠を編んでみない?」
ミオの提案で、皆で籠作りに挑戦する。
おひーん君は水中から器用に葦を押し上げてくれた。平たい体を上手く使って、水中の葦の根元を押している。
「おひーん君、すごい!」
「水の中なら〜、こういうのは得意だよ〜」
細長い体をくねらせて、おひーん君は次々と葦を集めてくれた。
皆で協力して、小さな籠がいくつか完成した。
「これ、くぴぃちゃんが配達する時に使えるんじゃない?」
ミオの言葉に、くぴぃの目が輝いた。
「本当?でも、飛べないし……」
「飛べなくても、運べるよ」
えうんが言う。
「歩いて配達すればいい」
「そ、そっか!」
くぴぃは籠を抱きしめた。
夕暮れ時、皆で完成した籠を眺めていた。おひーん君は相変わらず水面に平たく浮かんでいる。
「今日も楽しかったね〜」
おひーん君がのんびりと言う。
「うん!」
「明日は何しよう?」
「だまぁ!明日も正義の見回りだ!」
皆で笑った。
その時、空に大きな光が走った。今度ははっきりと見えた。流れ星にしては、あまりにも大きく、そして長い。
「な、なんだあれ!」
だまよおが叫ぶ。
「流れ星……じゃないよね?」
えうんが不安そうに言う。
「なんか〜、落ちてきてるみたいだね〜」
おひーん君が平たい体を少し持ち上げて、のんびりと、でも的確に指摘した。
光は遠くの森の向こうに消えていった。
「明日、見に行ってみる?」
ミオの提案に、皆は顔を見合わせた。
おひーん君は水面で体をくねらせた。
「ぼくは〜、ここで待ってるね〜。陸は苦手だから〜」
どどらんどに、いよいよ大きな変化が訪れようとしていた。

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