第7話「くぴぃの初配達」

朝日が昇る前、くぴぃは緊張で眠れずに起きていた。
今日は記念すべき初配達の日。クーコ種として、いつかは物流の仕事をしなければならない。飛べないくぴぃにとって、それは大きな挑戦だった。
「よし、やるぞ!」
白い丸い体を震わせて、気合を入れる。赤いリボンをきゅっと結び直し、小さな鏡で身だしなみを確認した。ピンクの飾り羽も、今日はいつもより高く立っているような気がする。
配達所に着くと、クーコ種の先輩たちが準備をしていた。皆、大きな翼を広げて、荷物を運ぶ準備をしている。
「あら、くぴぃちゃん。今日から?」
年配のクーコ種、トリさんが優しく声をかけてくれた。
「は、はい!歩いてですけど、頑張ります!」
「そう。無理しないでね」
トリさんは小さな籠を用意してくれた。中には、マメキン種の集落に届ける木の実が入っている。
「これなら、歩いても運べるでしょう」
「ありがとうございます!」
くぴぃは籠を背負った。思ったより重いが、なんとか歩ける。
配達所を出ると、えうん、ミオ、だまよおが待っていた。
「くぴぃ、頑張って!」
ミオが手を振る。
「無理するなよ」
えうんも心配そうだ。
「だまぁ!おれも途中まで一緒に行く!」
だまよおが隣を歩き始めた。
「え、いいの?」
「正義の味方は困ってる奴を助けるんだ!」
四人で歩き始めた。最初は平坦な道で、くぴぃも元気いっぱいだった。
「これなら楽勝!」
小さな翼をパタパタさせながら、リズミカルに歩く。
しかし、坂道に差し掛かると、急に辛くなってきた。
「はぁ、はぁ……」
白い丸い体では、バランスを取るのが難しい。何度も転がりそうになる。
「大丈夫?」
えうんが心配そうに聞く。
「だ、大丈夫……」
強がってはみたものの、足がガクガクしている。籠の重さが、小さな体には堪える。
「ちょっと休もう」
ミオの提案で、木陰で休憩することになった。
「やっぱり、飛べないと……」
くぴぃがしょんぼりする。ピンクの飾り羽が垂れ下がった。
「そんなことない」
えうんが言う。
「くぴぃは頑張ってる。それが大事だよ」
「そうだそうだ!」
だまよおも同意する。
「飛べなくても、歩いて届ければいいんだ!」
ミオが水筒を差し出した。
「ゆっくりでいいんだよ。初めてなんだから」
皆の優しさに、くぴぃは涙ぐんだ。
「みんな……ありがとう」
休憩を終えて、再び歩き始めた。今度は皆がペースを合わせてくれる。
「あ、見て」
ミオが指差した先に、色とりどりの花が咲いていた。
「きれい!」
くぴぃが目を輝かせる。
「帰りに摘んでいこう」
えうんの提案に、くぴぃは嬉しそうに頷いた。
マメキン種の集落が見えてきた。岩場の間に、石のドームがいくつも並んでいる。
「ここでいいよ。ありがとう、みんな」
くぴぃは一人で集落の中へ入っていった。
「配達でーす!」
大きな声で呼ぶと、小さなマメキン種たちが出てきた。
「おお、配達か」
ガンさんが出てきた。
「初めて見る顔だな」
「く、くぴぃです!今日から配達を始めました!」
「ほう、歩いてきたのか」
「はい!」
ガンさんは感心したように頷いた。
「偉いな。飛べなくても、ちゃんと仕事をする。それが一番大事だ」
木の実を渡すと、子供たちが集まってきた。
「わぁ!白くて丸い!」
「かわいい!」
「リボンきれい!」
子供たちに囲まれて、くぴぃは照れくさそうにした。でも、嬉しかった。
「お姉ちゃん、また来る?」
小さな女の子が聞いてきた。
「うん!また来るよ!」
「やったー!」
子供たちの笑顔を見て、くぴぃは配達の仕事の意味が少し分かった気がした。
物を運ぶだけじゃない。笑顔も一緒に届けるんだ。
帰り道、約束通り花を摘んだ。
「これ、押し花にしようかな」
くぴぃが言うと、ミオが目を輝かせた。
「いいね!作り方教えてあげる」
「本当?」
四人で歩きながら、くぴぃは今日のことを振り返っていた。
初めての配達。大変だったけど、楽しかった。そして、友達がいることの大切さを改めて感じた。
「ねぇ、みんな」
「なに?」
「今日は、ありがとう。一人じゃ、きっと途中で諦めてた」
「何言ってるんだ」
だまよおが笑う。
「友達じゃないか」
「そうだよ」
えうんも頷く。
「困った時は助け合う。それが当たり前」
ミオも微笑んだ。
「くぴぃちゃん、よく頑張った」
夕方、それぞれの家に帰る前、くぴぃは空を見上げた。
夕焼けが美しい。あの空を、いつか飛べるようになりたい。
でも、今日分かった。飛べなくても、できることはある。
小さな翼をパタパタさせる。まだ体は浮かないけど、心は軽くなった気がした。
「明日も配達、頑張ろう」
赤いリボンを揺らしながら、くぴぃは家へと歩いていった。
その夜、くぴぃは配達所のトリさんに報告に行った。
「無事に届けられたのね」
「はい!子供たちも喜んでくれました」
「それは良かった。配達の仕事はね、ただ物を運ぶだけじゃないの」
トリさんは優しく微笑んだ。
「人と人を繋ぐ仕事なのよ」
「人と人を……」
「そう。あなたが運んだ木の実で、誰かが笑顔になる。その笑顔がまた、別の誰かを幸せにする」
くぴぃは、今日の子供たちの笑顔を思い出した。
「分かります!」
「よし、明日もお願いね」
「はい!」
家に帰ると、母親が待っていた。
「お疲れ様。どうだった?」
「楽しかった!」
くぴぃは今日あったことを全部話した。友達が助けてくれたこと、子供たちが喜んでくれたこと、トリさんの言葉。
「良い友達を持ったね」
母親は優しく頭を撫でてくれた。
「飛べなくても、あなたにはあなたの道がある」
「うん!」
ベッドに入ると、疲れがどっと出てきた。でも、心地よい疲れだった。
明日はどこに配達に行くのだろう。どんな人に会えるのだろう。
小さな翼を畳んで、くぴぃは幸せな気持ちで眠りについた。
初めての配達は、大成功だった。

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